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名古屋地方裁判所 昭和51年(ワ)412号 判決

原告

若山キサ子

被告

梅田秀人

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金五〇〇万九、二五八円及びこれに対する昭和四九年九月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金二、〇〇六万〇、七八八円及びこれに対する昭和四九年九月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四九年九月二四日午前八時四〇分ころ

(二) 場所 岐阜県加茂郡東白川村神土二、一〇一番地先通称白川街道

(三) 加害車 小型乗用自動車(岐五五ら九三九三号)

右運転者 被告梅田秀人(以下単に「被告梅田」という。被告古田についても同様。)

(四) 被害車 小型乗用自動車(名古屋五七そ一三九一号)

右運転者 倉田重秋(以下単に「倉田」という。)

右同乗者 原告

(五) 態様 原告の同乗する被害車が、通称白川街道を白川町方面から加子母村方面へ向けて走行し、道路左端へ寄つていつたん停止していたところ、前方から時速約六〇キロメートルの高速で対向進行してきた加害車が正面衝突し、原告は負傷した。

2  受傷、治療経過等

(1) 受傷 頸部背部左肩関節部挫傷及び左膝関節部挫傷等

(2) 治療経過

入院

昭和四九年九月三〇日から同年一一月一一日まで(四三日間)

通院

昭和四九年九月二四日かり昭和五〇年一〇月一七日までのうち右入院期間を除いた期間(実日数二四七日)

(3) 後遺症 外傷性頭頸部症候群(自動車損害賠償保障法〔以下「自賠法」と略称する。〕施行令別表第七級該当)の症状が昭和五〇年一二月一日固定

3  責任原因

(一) 被告梅田について(民法七〇九条)

本件事故現場付近は、道路の幅員が約四メートルと狭いうえに路面の状態も悪かつたのであるから、加害車の運転者である被告梅田は、対向車の存在に十分注意し、速度を落としたうえ道路の左端に寄るなどして事故の発生を防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速約六〇キロメートルの高速で、かつ、進行方向右側を進行した過失により、本件事故をひき起こした。

(二) 被告古田について(自賠法三条)

被告古田は、加害車を自己のために運行の用に供していた。

すなわち、被告古田は、加害車の登録上の所有名義を有していたうえ、被告梅田に同車を売却したものの、被告梅田は、被告古田の従業員で、そのセールスその他の業務に同車を使用したほか被告古田の顧客に代車としてこれを提供するなどし、さらに、被告古田からガソリン代の支給を受けていた。

4  損害

(一) 治療関係費

(1) 治療費 計金一七〇万一、九六〇円

東白川病院分 金七、四八〇円

千田病院分 金一六九万四、四八〇円

(2) 入院付添費 金一〇万五、〇〇〇円

入院期間中二一日について付添看護を要したが、一日金五、〇〇〇円の割合による二一日分

(3) 入院雑費 金二万一、五〇〇円

入院中一日金五〇〇円の割合による四三日分

(4) 薬品代

内藤薬局分 金五万六、〇一〇円

西村エミ子分 金四万四、〇〇〇円

(5) 頸椎装具代等 金五、四五〇円

(6) 文書料 金三、〇〇〇円

(二) 逸失利益

(1) 休業損害 金三〇八万七、三九九円

原告は、夫とともに大隅建鉄工業所を経営し、少なくとも、賃金センサスにおける産業規模計、企業規模計女子労働者の大学卒の三五歳から三九歳までの平均給与額に相当する収入を得ていたが、本件事故により、昭和四九年九月二四日から昭和五〇年一二月一日まで休業を余儀なくされた。原告の年収は、昭和四九年分については金二二四万五、八〇〇円、昭和五〇年分については金二七〇万〇、二〇〇円を下らないから、原告が右期間内に失つた収入は次式のとおり、金三〇八万七、三九九円を下らない。

224万5,800円÷365×99+270万0,200円÷365×335=308万7,399円

(2) 後遺症による逸失利益 金一、〇〇三万六、七三九円

原告は、前記2の(3)に記載の後遺症障害のため、昭和五〇年一二月一日から少なくとも七年間、その労働能力を五六パーセント喪失したとみられるが、その間の原告の年収は、昭和五〇年度賃金センサスの産業規模計、企業規模計女子労働者大学卒の四〇歳から四四歳までの平均年収金三〇五万一、二〇〇円を下ることはないと考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次式のとおり、金一、〇〇三万六、七三九円となる。

305万1,200円×0.56×5.874=1,003万6,739円

(三) 慰藉料

(1) 入通院分 金一五〇万円

(2) 後遺症分 金三三〇万円

(四) 弁護士費用 金二〇〇万円

5  損害の填補による控除

原告は次のとおり支払を受けたので、本件請求から控除する。

(一) 自賠責保険金 金一八四万円

(二) 被告梅田の支払 金六万五、二七〇円

6  よつて、原告は、被告ら各自に対し、本件事故による損害金二、〇〇六万〇、七八八円及びこれに対する不法行為の日である昭和四九年九月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告梅田の答弁

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認めるが、(五)の事実は否認する。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の(一)の事実は否認する。

4  同4の事実はいずれも知らない。

三  請求原因に対する被告古田の答弁

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認めるが、(五)のうち被害車がいつたん停止していたこと及び加害車の速度が時速約六〇キロメートルであつたことは否認するが、その余の(五)の事実は知らない。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の(二)の事実は否認する。被告古田は、事故当時、加害車の運行供用者ではなかつた。

すなわち、被告古田は、昭和四八年六月、被告梅田に対し、加害車を所有権留保のまま売却したが、被告梅田は、昭和四九年二月までに代金を完済したものであり、加害車は被告古田の業務には使用されず、本件事故は被告古田の業務とは無関係な通勤途上の事故であつた。

4  同4の(一)の(1)の事実は知らない。その余4の事実はすべて否認する。

四  被告古田の抗弁

1  過失相殺(倉田の過失による分)

(一) 被害車の運転者倉田は、原告の使用人であつたから、本件事故についての倉田の過失は、原告の過失と同視されるべきである。

(二) 本件事故の発生については、次のとおり、倉田にも過失があつた。

すなわち、本件事故現場は、相当湾曲しており、加害車、被害車とも相互に一〇メートル前後の距離にまで近づかなければ相手車を発見しえない場所であつたから、被害車を運転する倉田としては、徐行又は停止すべき義務があつたのに、これを怠つて、被害車を加害車に出会頭に衝突させた過失がある。

2  過失相殺(原告自身の過失による分)

(一) 原告は、自動車に同乗する者としては安全な姿勢で乗車すべき義務があるのに、被害車内において危険な横座りの格好でいた過失により受傷した。

(二) 原告は、受傷した患者としては医師の指示に従つて早期に治療回復するよう努力すべき義務があるのに、医師の指示に反し、あえて千田病院から退院し、さらに、薬剤を勝手に服用した過失により、治癒を遅らせた。

五  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)の事実は認める。同1の(二)の事実は否認する。倉田は、もともと低速進行し、一旦停止したから過失はない。

2  同2の(1)、(2)の事実は、いずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

2  いずれも成立について争いのない甲第一四号証、乙第一号証、第八、第九号証、原告及び被告梅田秀人の各本人尋問の結果(但し、乙第一号証及び被告梅田秀人の本人尋問の結果中後記採用できない部分を除く。)、弁論の全趣旨(第八回口頭弁論において顕出された送付嘱託に係る文書を含む。)に右1の当事者間に争いのない事実を総合すれば次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故は、昭和四九年九月二四日午前八時四〇分ころ、岐阜県加茂郡東白川村神土二一〇一番地先主要地方道二五号白川加子母線(通称白川街道、以下「白川街道」という。)上において発生した。

本件現場より北方の加子母村方面から現場方向に向かつて南北におおむね直線に延びてきた白川街道が、現場付近において南西方向の白川口方面に向けて大きく湾曲し、これと現場付近から北方の下親田黒川方面に向けて延びる狭路とが、現場付近において交差して、変形三差路の交差点をなしていた。道路の幅員は、右交差点より北方部分においては、約四・七メートル、右交差点より南西部分においては約四・五メートルあり、右交差点より南方部分は右両部分よりかなり幅員が狭く、右両部分に比して間道となつていた。右交差点の北東側の角には民家(安江将一方)の建物があるため、白川街道上では加子母村方面からも白川口方面からも、互いに相手方向の見通しが悪い状態にあつた。

現場付近の路面は簡易舗装され平坦であつたが、白川口方面に向かつてやや下り勾配となつていた。路面は事故当時降雨のため湿潤であつた。現場付近では特に交通規制は施されていなかつた。

本件事故当時、右交差点内北側入口付近の東端付近に南向きに貨物自動車が駐車されて道路を塞いでいたため、同車と道路の西端との間には約四・二メートルの余裕しか残されていなかつた。

(二)  被告梅田は、小型乗用自動車(岐五五ら九三九三号、以下「甲車」という。)を運転し、白川街道上を加子母村方面から時速約四〇キロメートルの速度で右交差点に向かつて進行した。

同被告は、進路前方左端に左方路地から後進して来る移動販売車を発見したことから、やや右転把し道路の右側部分を通行して右交差点手前にさしかかつた。ところが、前記のとおり右交差点内に駐車された貨物自動車の後方から歩行者が出てきたのを見つけたので、同被告は、さらに右転把し、右交差点北側の安江貞行方前電柱から北方約四・二メートルの地点に達したところ、進路右前方約二七メートルの距離にある右交差点の白川口方面からの入口付近に倉田の運転する小型乗用自動車(名古屋五七そ一三九一号、以下「乙車」という。)を発見し、約二・二メートルほど進行して危険を感じて急制動したが、間にあわず、右電柱から南方へ約一〇・一メートル、右交差点西側道路端から約一・八メートルそれぞれ隔てた地点で右駐車中の貨物自動車のほぼま西にあたる地点(以下「衝突地点」という。)において、自車右前部を乙車右前部と衝突させた。甲車の急制動の措置により、路面上にその右前輪による制動痕が約七・五メートルにわたつて印象された。

(三)  倉田は、乙車を運転し、白川街道上を白川口方面から北東に向けて時速約三〇キロメートルの速度で走行して右交差点にさしかかり、右交差点南西入口付近で前記電柱より南方約二二・八メートルの地点において、進路左前方約二五メートルの地点に南進して来る甲車を発見し、約〇・九メートル進行したのち制動して時速約一五キロメートルまで減速しながら左転把し、さらに制動措置を続けてほぼ停止に近い状態で衝突地点に至り、前記のとおり甲車と衝突した。

(四)  原告は、乙車に同乗し、その後部座席に足を伸ばして横向きに挫つて居眠りをしていたところ、右甲車との衝突により負傷した。

以上の事実を認めることができ、乙第一号証、被告梅田秀人の本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  受湯、治療経過等

いずれも成立について争いのない甲第三号証の一ないし四、第五号証の一、原告と被告古田との間においては成立について争いがなく、原告と被告梅田との間においては弁論の全趣旨により真正な成立を認めることのできる甲第二二号証、証人伊藤博治の証言、原告本人尋問の結果、鑑定嘱託の結果によれば、請求原因2の(1)及び(2)の事実を認めることができ、かつ、後遺症として右半身の知覚鈍麻、右上下肢の粗大筋力の低下、頭部運動障害、右手指の微細運動障害、脳波異常等の外傷性頭頸部症候群の症状(自賠法施行令別表七級四号に該当)が固定(昭和五〇年一二月一日ころ固定)したことが認められる。

なお、証人古田昌勝の証言により原告を被写体として昭和五四年二月二〇日安江勝哉により撮影された写真であることが認められる乙第一四号証の一ないし四、同証人の証言、検証の結果によれば、原告は、昭和五四年二月ころには、自動車を運転し、ある程度の荷物を右手で持ち、少なくとも短い距離の間では普通に歩行しうる状態にあつたことが認められる。しかしながら、証人伊藤博治の証言、鑑定嘱託の結果によれば、原告の後遺症等級の認定について鑑定を担当した伊藤博治は、原告について従前の治療経過を調査して原告を問診し、さらに詳細な検査を行つて、鑑定時における自覚症状、他覚症状を詳しく確定したうえ、症状の部位、脳波検査の結果から傷害部位を左大脳と推定し、右各症状を左大脳挫傷による結果であると推定し、さらに一般的むち打ち症の症状があることから、一括して外傷性頭頸部症候群として扱うべきことを認め、症状の程度から右認定の後遺症等級を導いたことが認められる。右認定の鑑定の方法、経過に経験則に反する点や不合理な点を認めることはできず、右鑑定の結果は十分採用するに足りる。もつとも、伊藤博治は、鑑定にあたつて、受傷時の状況と脳挫傷との間に問題点を留保していることも明らかにされているが、前記一の2の(四)における認定事実に照らすと、原告が相当強い外力を受けたことの可能性を否定することはできず、右問題点は氷解の余地があり、そのうえ右問題点のあることから当然に認定される後遺症等級に異同を来すとも考えられない。また、同証人の証言及び鑑定嘱託の結果によれば、原告は昭和五一年から昭和五二年までの間に数回にわたり検査を受けたが、各検査を通じて、脳波検査においては限局性の異常波を出現させ、上肢握力検査においては右上肢についてほぼ五キログラム程度の検査結果を呈していたこと、原告の後遺症は相当程度回復の可能性が予見されるものであつたことを認めることができ、これらの事実によれば、原告の昭和五四年二月ころの状態についての右認定事実から原告の後遺症等級についての右認定を覆すことはできない。

もつとも、右認定事実によれば、原告の後遺症障害は右昭和五四年二月ころまでにかなり顕著な改善を見せていることも明らかであるから、後記の後遺症による逸失利益、慰藉料の算定にあたつてはこの事実を考慮に入れるのが相当である。

三  責任原因

1  被告梅田について

前記一の2において認定した事実によれば、本件事故現場付近は、道路の幅員が狭い見通しの悪い変形三差路となつており、しかも駐車車両により通行できる有効幅員がさらに狭められていたのであるから、甲車を運転する被告梅田としては、進路右前方の白川街道白川口方面から自車進路上に進行して来る車両のありうることを予想して、右交差点手前で十分に減速徐行して進路前方の安全を確認したうえ道路の左端に寄つて事故が発生しないよう未然に防止すべき注意義務があつたのに、右注意義務に反し、十分減速徐行しないまま、前記の後進車両や歩行者にのみ気を取られ、漫然と道路右端を進行した過失があり、右過失が本件事故の主たる原因となつているということができるから、同被告は、不法行為者として、民法七〇九条により、本件事故による原告の損害を賠償すべき義務がある。

2  被告古田について

当裁判所が被告古田について本訴請求に関し自賠法三条の責任があるとの中間判決をしたことは本件記録上明らかであつて、本判決は中間判決の右判断に当然羈束される。

四  損害

1  治療関係費

(一)  治療費等 金一七〇万一、九六〇円

いずれも成立について争いのない甲第五号証の一ないし六によれば、原告は、本件事故による傷害の治療のため東白川病院において金七、四八〇円(但し文書料金五〇〇円を含む。)の治療費を、千田病院において、昭和四九年九月二五日から同月二八日までの分として金三万〇、三六〇円、同年九月三〇日から同年一一月一一日までの分として金六一万七、四一〇円、同月一二日から昭和五〇年六月六日までの分として金六七万三、二〇〇円、同月七日から同年九月八日までの分として金二五万九、七七〇円、同月九日から同年一〇月一七日までの分として金一一万三、七四〇円合計金一六九万四、四八〇円の治療費を、それぞれ要したことが認められ、右の合計は金一七〇万一、九六〇円となる。

(二)  付添看護料 金四万二、〇〇〇円

成立に争いのない甲第三号証の二と経験則によれば、原告は前記入院期間中二一日間付添看護を要し、その間一日金二、〇〇〇円の割合による合計金四万二、〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。右金額を越える分については、本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

(三)  入院雑費 金二万一、五〇〇円

原告が四三日間入院したことは前記二において認定したとおりであり、右入院期間中一日金五〇〇円の割合による合計金二万一、五〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(四)  薬品代

原告本人尋問の結果により真正な成立を認めることのできる甲第七号証の一ないし一三、原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和四九年九月から昭和五〇年六月までの間に内藤薬局から鎮痛剤、貼り薬等の薬品を購入し、代金として合計金五万六、〇一〇円の支出をし、さらに、昭和五〇年三月薬剤販売の資格のない知人の西村エミ子からパールイオンクリームというマツサージ薬等を購入して金四万四、〇〇〇円を支出したことが認められる。

しかしながら、原告本人尋問の結果と前記二における認定事実によれば、原告は右各薬品の購入時ころ、医師の治療を受けていたが、右各購入は医師に相談することなくなされたことが認められるところ、医師の治療と別個に右各薬品購入をすべき必要があつたことを示す特別の事情を認めるに足りる証拠がない以上、右の各購入代金について損害としての相当性を認めることはできない。

(五)  頸椎装身具代等 金五、四五〇円

成立について争いのない甲第六号証によれば、原告は、頸椎装具、軟性カラーを購入し、代金として金五、四五〇円の支出を余儀なくされたことが認められる。

(六)  文書料 金三、〇〇〇円

原告と被告古田との間においては成立について争いがなく、原告と被告梅田との間においては弁論の全趣旨により真正な成立を認めることのできる甲第二三号証に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、千田病院に対し、本件に係る文書料として金三、〇〇〇円の支出を余儀なくされたことを認めることができる。

2  逸失利益

(一)  休業損害 金一三一万二、一五〇円

前掲甲第三号証の一ないし三、原告本人尋問の結果に前記二における認定事実を総合すると、原告は、昭和一〇年一一月二日生で、事故当時、三八歳であり、夫が大隅建鉄工業所という名で営む建築請負業の自動車運転等の業務を担当するかたわら主婦として家事労働に従事していたが、本件事故により昭和四九年九月二四日から昭和五〇年一二月一日まで休業を余儀なくされたことが認められる。なお、原告は、原告自身が右大隅建鉄工業所の経営者であると主張するが、本人尋問において原告は経営の細部について供述できないこと、本人尋問に表われた右工業所名への変更の経緯に照らすと右工業所の経営者は右認定のとおり原告の夫であると認められる。

ところで、原告の収入額を直接示す証拠はないから、原告の収入は女子労働者の平均賃金によつて算出するべきであるが右の認定事実に照らすと、原告の学歴の点について何らの主張立証がない以上、原告と同年齢の女子労働者の学歴計の平均賃金を基準とするのが相当である。

成立について争いのない甲第一三号証によれば、昭和四九年の女子労働者の産業計、企業規模計、学歴計による三五歳ないし三九歳の平均年収は金一一二万四、七〇〇円であるから、右期間内の原告の休業損害は、次式のとおり金一三一万二、一五〇円となる。

112万4,700円÷12×14=131万2,150円

(二)  後遺症による逸失利益 金二八二万〇、四〇九円

前記二において認定した原告の受傷及び後遺症障害の部位程度に前記二の末尾において検討したところを総合すれば、原告は前記後遺症障害のため、その労働能力を後遺症の固定した昭和五〇年一二月一日から三年間は五六パーセント、その後四年間は一四パーセント、それぞれ喪失するものと認められる。

ところで、右(一)において検討したとおり原告の収入は同年齢の女子労働者の学歴計の平均賃金を基準とすべきであるところ、当裁判所に顕著な賃金センサス昭和五〇年(調査時期が右固定時前で直近のもの)第一巻第一表によれば、女子労働者の産業計、企業規模計、学歴計による四〇歳ないし四四歳のきまつて支給される現金給与額、年間賞与その他特別給与額は、それぞれ金九万三、四〇〇円、金三一万一、三〇〇円であるから、その原告の後遺症逸失利益を算定するにあたつて基準とすべき年収額は、次式のとおり金一四三万二、一〇〇円とすべきである。

9万3,400円×12+31万1,300円=143万2,100円

そうすると、原告の後遺症による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次式のとおり金二八二万〇、四〇九円となる。

143万2,100円×{0.56×2.7310+0.14×(5.8743-2.7310)}=282万0,409円

五  過失相殺

1  被告古田の抗弁1の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  前記一の2において認定した事実によれば、事故現場付近は見通しの悪い交差点で、狭い道路幅が駐車車両によりさらに狭められていたのであるから、乙車を運転する倉田としても、白川街道上を加子母村方面から自車線上に進行して来る車両のありうることを予想し、右交差点の手前であらかじめ十分減速又は徐行して進路前方の安全を確認しつつ進行すべき義務があつたのに、減速が遅れ、甲車を発見してようやく減速したものの、前記のとおり被告古田に過失があつたこともあつて間に合わず、本件事故に至つたことが認められ、倉田にも右の点に過失のあることを否定できない。

3  前記一の2における認定事実によれば、原告は、乙車の後部座席上に足を伸ばして横向きに座つて同乗中本件事故に遭つたことが認められる。原告の姿勢保持が右のとおり不十分であつたために、通常の姿勢で同乗していた場合に比して、原告が事故によつて受けた衝撃が強められ、その結果、少なくとも、原告の受傷がより重大になりその損害が拡大したことは、経験則上容易に推認することができ、証人伊藤博治の証言によつては、右推認を左右することはできない。

乙車に同乗する原告としても自動車交通により様々な危険が予測されるのであるから、できるだけ安全な姿勢を保持すべきであつたということができるので、右の点において原告自身にも過失があつたと認められる。

4  なお、被告古田は、原告には、医師の指示に反して千田病院から退院し、さらに、薬剤を勝手に服用したことにより治癒を遅らせた点にも過失があると主張する。

なるほど、原告本人尋問の結果によれば、原告は、医師の反対を押し切つて昭和四九年一一月一一日に千田病院を退院したこと、医師の指示のないまま自分で売薬等を購入使用したことを認めることはできるけれども、本件全証拠によつても、原告の右退院、個人的薬剤使用がその傷病の回復を遅らせたことまで認めることはできないから、右主張は失当というほかない。

5  前記一の2において認定した事故の態様、右2及び3並びに前記三の1において検討した倉田、原告自身、被告古田の各過失の内容程度その他諸般の事情を考慮すると、前記四において検討した原告の損害合計金五九〇万六、四六九円についてその三割を減ずるのが相当であると認められる(なお、被告梅田は、明示的に過失相殺の主張をしないが、同被告は、自己の過失を否認するから、予備的に過失相殺の主張をするものと解されるので、原告と右被告との間においても、右過失相殺の処置をする。)。

右の過失相殺をすると、右損害の合計は金四一三万四、五二八円となる。

六  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位程度、治療の経過、後遺症の内容程度、その改善の程度その他諸般の事情に前記五において検討した倉田及び原告自身の過失を総合すれば、原告の慰藉料額は金二四三万円とするのが相当であると認められる。

七  損害の填補

請求原因5の(一)及び(二)の損害の填補の事実は原告の自認するところであるから、その合計額金一九〇万五、二七〇円を前記五の5及び六において得られた金額の合計額金六五六万四、五二八円から控除すると金四六五万九、二五八円となる。

八  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告ら各自に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金三五万円とするのが相当であると認められる。

九  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、本件事故による損害金五〇〇万九、二五八円とこれに対する不法行為の日である昭和四九年九月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 成田喜達)

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